4188F98COOL

 

ルボー・サウンドコレクション ドラマCD 「COLD SLEEP」(木原音瀬/マリン・エンタテインメント)
ついに買ったので書いてみました。
まず、記憶喪失の人間が恋愛対象になるかどうかなんてことを考えたことがなかった。初対面の相手が、ある時期以前の記憶を失った状態であったとする。
その人と相思相愛になったとして、じゃあもしいつか記憶が戻ったら? という問題がそこにあるなんて、考えもしなかった。
この物語の二人の出会いは、記憶喪失後ではない。
多くの因果の絡み合いを経て、高久透は藤島啓志を憎んでいた。そして各々別に生計を立て疎遠になった距離感での、透の記憶喪失だった。
その時数年ぶりに、透の前に現れる啓志。彼はずっと、透のことが性的な意味で好きだった。憎まれていても疎遠になってもそれは変わらなかった。
そして今、過去がすべて消えた透を目の前にして、その愛ゆえに彼は思う。ここで自分たちに絡みついた因果をすべて断ち切って、ゼロからやり直せないかと。
切ないなんてもんじゃなくて、すっごく辛い。痛い。苦しい。重い。主人公の二人とも、悪くないとは言えないけど幼いころからの環境を思うと責められない…。
透とやり直すと決めたからには過去を一人で抱え込み自分を殺し、同じ轍を踏まないために透には何も望まず生きていく覚悟をした啓志。
幸いというか不思議なことに、透は記憶喪失前の荒い気性はどこへやら、素直な性格で自分に良くしてくれる啓志のことをまっすぐに慕ってくる。
しかし啓志は、それを受け入れてはならないのだ。自分のためにも透のためにも。自分には透から何かを得る資格なんかないし、透だっていつかは記憶が戻るかもしれない。
いや、戻ろうと戻るまいと、彼のことを思えば自分となど結ばれるべきではないのだから。

 

「現に君は、あんなに嫌っていた僕のことを忘れてしまっていたじゃないか!」
「それは…仕方ないだろ!」
透も透で、20年余の自分を形成したすべてをなくして生きることの不安に毎日付きまとわれ、それでも殊勝に前を向いて生きていこうとする。
そのフォローを献身的に行ってくれる啓志に、その多くを語ってはくれないが押し殺したような思いやりに、一緒に暮らすうちに自然に惹かれてゆく。
しかしその慕情はいつも一定の距離を保って拒絶され、叶うことはない。
お互い想い合いつつも結ばれることはない――という古典的な恋愛もので、身も蓋もない言い方をすれば純文学風昼ドラ系BLという意味で下世話なエンターテイメントとしてもよくできているわけですが、
それ以上の評価がされるのは、お互いが必死に愛することより必死に生きることと相手を思いやることに重点が置かれているからだと思う。
そう、そういう恋愛ものが読みたいのよ!
啓志にとっては初恋だった。まだ幼く無垢な透に恋をした。その後、啓志を含むその環境すべての因果で荒んだ透も啓志にとっては初恋の相手そのものであり、愛し続けることができた。
しかし心の中では、自分があの時あんな下劣な真似をしなければ…と悔いていたのは間違いないだろう。
そんな彼の人生に再び現れた、まっさらで無垢な透。目の前のこの男は、記憶をなくす前の彼と同じ人間なのだろうか。
今の彼をまた愛したとして、それは初恋の続きなのか、全く別の新しい恋なのか? そして彼の記憶が戻ったら、その思いはどこへ行ってしまうのか。
自分にまっすぐ向けられる彼の恋心も、その時には消えてしまうのではないか。
過去はなかったことにはならない。そんな都合のいいやり直しなどできない。
しかし彼らはそれでも、今度はお互い真摯に向かい合いぶつかり合うことで、ゼロからのやり直しをした。という話だと思いました。